粒子測定技術

動的画像解析

微細粒子は、自然界に存在する物質から工業的に製造される材料に至るまで、材料特性や製品性能を左右する重要な要素です。溶解性、吸着特性、反応速度などの各種プロセスは、粒子のサイズ、形状、表面積、多孔構造、さらには粒子の集合状態によって大きく影響を受けます。
 
これらの粒子特性は、目的とする機能や性能を最大限に引き出すために適切に制御される必要があり、そのためには正確な測定が不可欠です。粒子寸法を評価するための測定技術は複数存在し、それぞれに特長と制約があります。用途に適さない測定手法を選択すると、得られるデータの信頼性や解釈に大きな影響を及ぼす可能性があります。
 
殆どの工業用粒子は、下図のような代表的なミクロン領域内に分類され、それぞれの粒径範囲に応じた最適な測定技術が求められます。
 

粒子サイズの測定に対応する技術は、同じような粒径範囲であっても多岐にわたります。そのため、それぞれの測定原理や特長の違いを理解し、自らの用途や目的に最も適した手法を選択することが非常に重要です。粒径だけでなく、測定に求められる情報やサンプル特性についても十分に考慮する必要があります。
 
例えば、粒子数や濃度の把握が重要な場合には、動的画像解析、光遮蔽法、電気的検知帯法(コールター原理)など、粒子をカウントできる測定手法が有効です。また、サンプルを液体中に分散させて測定するのか、乾燥状態で評価するのかといった点も、測定技術を選定する際の重要な判断要素となります。このように、粒子解析には用途や条件に応じて多様な手法が選択されます。
 
さらに重要なのは、異なる測定技術では、同じ粒子サンプルであっても報告される粒子サイズがわずかに異なる場合があるという点です。特に粒子の形状が球状から大きく外れる場合には、その差が顕著になることがあります。これは、いずれかの測定結果が誤っているという意味ではなく、各手法が異なる前提や定義に基づいて粒子サイズを算出しているためです。
 
この点を明確に示すため、数年前に 当社Vision Analytical、Micromeritics Instrument Corporation、MVA Scientific Consultants の3社が共同で比較研究を実施しました。本研究では、形状の異なる3種類のサンプルが選定されました。
 
1つ目のサンプルは、ガラスビーズで、一般に非常に球状で、粒径は約50µmです。
2つ目は、研磨材として用いられるガーネットで、形状が非常に不規則であるにもかかわらず、サイズのみの測定手法では約50µmと評価されました。3つ目は、鉱物原料として幅広い産業用途を持つウォラストナイトで、ガラスビーズやガーネットとは大きく異なり、非常に細長い針状形状を有しています。
 
本比較例は、粒子形状が測定結果に大きな影響を与えること、そして用途に応じて適切な測定技術を選択する重要性を示しています。

ガラスビーズ

ガーネット

ウォラストナイト

これら3種類の粒子サンプルを評価するために、複数の代表的な粒子測定技術が用いられました。それぞれの手法は異なる測定原理に基づいており、得られる粒子サイズ情報にも特長があります。
 
まず、沈降法では、液体中を沈降する粒子の速度を測定し、ストークスの法則に基づいて粒子サイズを算出します。この手法も、粒子を球状と仮定した間接測定法であり、形状が不規則な粒子の場合には、実際の形状特性が十分に反映されないことがあります。
 
次に、レーザー光散乱法(レーザー回折)は、粒子サイズ測定において広く使用されている手法です。本手法では、粒子にレーザー光を照射し、粒子から散乱される光の角度分布と強度を測定します。その結果を基に、すべての粒子が球状であると仮定して粒子サイズを数学的に算出する間接測定法です。迅速な測定が可能である一方、粒子形状の影響を直接評価することはできません。
 
3つ目の手法は、電気的検知帯法(コールター原理)です。導電性液体中に懸濁した粒子が微小なオリフィスを通過する際に生じる電圧変化を検出し、その変化量から粒子の体積を算出します。同時に粒子数を直接カウントできる点が特長ですが、こちらも粒子を球状と仮定した間接的なサイズ測定法です。
 
最後に用いられたのが、動的画像解析(Dynamic Image Analysis)です。この手法では、検出ゾーンを通過する粒子を高速で撮像し、各粒子の二次元投影画像に基づいて直接測定を行います。動的画像解析は、粒子サイズだけでなく、形状やアスペクト比、表面特性などの詳細な形状情報を同時に取得できる直接測定技術であり、不規則形状粒子の評価に特に有効です。

ガラスビーズの測定結果

ガラスビーズはほぼ完全な球形粒子であるため、各測定技術が算出する粒子サイズは、いずれも等価な球体直径として定義されます。その結果、異なる測定手法を用いた場合でも、類似した粒子サイズ結果が得られることが期待されます。
 
実際に、4種類の粒子サイズ分布測定技術を用いてガラスビーズを解析したところ、中央値(D50)はすべての手法において非常に近い値を示しました。一方で、測定技術によっては、粒子サイズ分布の広がり(分布幅)に違いが見られることも確認されています。
 
この比較において使用された粒子サイズは、いずれの測定技術においても、すべての粒子が球状であるという前提に基づいて算出されたサイズです。この結果は、粒子が球形に近い場合には、測定原理の異なる手法であっても、代表粒径に関しては高い一致性が得られることを示しています。

ガーネットの測定結果

ガーネット粒子は球形ではなく、角ばった立方体に近い形状を有しています。このような立方体状粒子では、対角線方向の長さが、等価体積をもつ球形の直径より約30%長くなることが知られています。そのため、流れの中で粒子の投影長さに影響を受ける測定技術(レーザー光散乱や動的画像解析など)では、等価球径に基づく測定機器と比べて、より大きな粒子サイズとして評価される傾向があります。
 
実際に、4種類の粒子サイズ分布測定技術を用いてガーネット試料を解析した結果、中央値(D50)の一致性は低く、測定手法による差が明確に現れました。これは、粒子が球形から大きく逸脱しているため、各手法が前提とする粒子モデルや検出原理の違いが、測定結果に反映されたためです。
 
また、粒子形状の不規則性により、粒子サイズ分布のヒストグラムは球状粒子の場合と比べて広がりのある分布を示しました。なお、本比較における粒子サイズは、いずれの測定技術においても「粒子を球形と仮定した場合のサイズ(等価球径)」として報告されています。

ウォラストナイトの測定結果

ガーネットで見られた流れ方向や形状の影響は、棒状(繊維状)形状をもつウォラストナイト粒子では、さらに顕著に現れます。粒子形状が細長くなるほど、測定原理の違いが粒径結果に大きく影響します。
 
レーザー光散乱法(レーザー回折)では、粒子から散乱される光のパターンに基づき、粒子の最大寸法に近いサイズを捉える傾向があります。一方、電気的検知帯法(コールター原理)や沈降法では、粒子を球形と仮定し、体積に相当する等価球径として粒子サイズを算出します。
 
また、レーザー光散乱法は、画像解析装置に比べて測定流路(検出ゾーン)が広いため、検出領域内により多くの微細粒子が同時に存在する可能性があります。この点も、測定結果の違いを生む要因の一つです。
 
実際に、ウォラストナイト試料を4種類の粒子サイズ分布測定技術で解析したところ、中央値(D50)の値にはほとんど一致が見られませんでした。これは、いずれの手法も繊維状粒子を「球形粒子」と仮定してサイズ換算を行っているためであり、粒子形状が大きく異なる場合には、測定技術間で結果の差が大きくなることを明確に示しています。
 
その結果、粒子サイズ分布の統計ヒストグラムにも大きな違いが現れ、非球形・繊維状粒子においては、測定原理を理解したうえで測定手法を選択することの重要性が明確になりました。


技術的相違が生じる要因

粒子形状が球形から異形になることで、測定技術ごとの粒径結果の差が大きくなる技術的な理由は、上記に記載した通りとなりますが、特に留意すべきポイントを整理して別途ご紹介します。
 
動的画像解析や電気的検知帯法(コールター原理)といった数値ベースの測定技術では、体積基準粒径分布と個数基準粒径分布の両方を算出・表示することが可能です。
 
一方、レーザー回折などの手法は、主に体積統計を基準として結果を出力します。そのため、異なる測定技術の結果を比較する際には、必ず同じ重み付け(個数基準または体積基準)を選択することが重要となります。これにより、測定原理の違いによる影響を最小限に抑え、より客観的で意味のある比較が可能となります。
 
また、各測定技術は、
 

  • 粒子の検出方法

  • サイズ算出の前提条件

  • 粒子形状の影響の受け方

 
といった点で本質的に異なる物理原理に基づいています。そのため、同一サンプルであっても、報告される粒子サイズや分布形状が完全に一致しないことは自然な結果です。

各粒子測定技術における測定原理と留意点

沈降法では、液体中を落下する粒子の速度を測定し、その速度から粒子径を算出します。沈降速度は、粒子の包絡形状に対する流体抵抗(抗力)に基づいており、さらに骨格密度などの材料特性も結果に影響します。一般に、密度の高い粒子ほど沈降速度は速くなります。
 
レーザー光散乱法(レーザー回折)では、粒子から散乱される光の強度分布を解析して粒子径を求めます。この手法では、粒子および懸濁媒体の屈折率を正しく設定することが非常に重要です。使用する光学モデルや測定サイズ範囲によっては、実屈折率および虚屈折率の両方の入力が必要となる場合があります。適切な設定により、信頼性の高い粒径結果が得られます。
 
電気的検知帯法(コールター原理)は、導電性液体中で粒子がオリフィスを通過する際に生じる体積変位を測定します。測定前に特定の光学特性を把握する必要はありませんが、球状粒子と不規則粒子では体積変位の挙動が異なることを理解しておくことが重要です。
 
動的画像解析は、検出ゾーンを通過する粒子を撮像し、粒子の2次元投影画像に基づいて直接測定を行います。この方法では、屈折率などの特定の光学的物性値を入力する必要はなく、粒子サイズと同時に形状情報も取得できます。

まとめ

粒子の形状が不規則になるほど、測定技術ごとに報告される粒子サイズに差が生じる傾向があります。しかし、これは測定原理の違いによるものであり、いずれの結果も誤りではありません。完全に一致することはなくても、結果同士には明確な相関関係があります。
 
重要なのは、粒子の形状特性と各測定技術の前提条件を理解したうえで、用途に適した技術を選択することです。これにより、測定結果の正しい解釈、信頼性の高い粒子特性評価および最終製品の最適化につながります。